山田尚子さん監督作『モダンラブ・東京』エピソード7について

記念すべき1つ目の記事が早速京アニ本家じゃないですが、京アニ出身・山田尚子さん監督作、『モダンラブ・東京』エピソード7がとても良かったのでその感想から…。

 

『モダンラブ・東京』はprime videoで2022年10月21日から配信中。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8QXNPZT/ref=atv_wp_cancel

以前ネット記事で1エピソードを山田尚子さんが監督されるというのを見て、気になっていました。

オムニバス「モダンラブ・東京」の1作で山田尚子が監督務める、黒木華&窪田正孝が出演(コメントあり) - コミックナタリー

 

ラブストーリーと聞いて、2022年の山田さんはどんな作風で勝負するのかなと思っていたのですが、自身の持ち味である「青春のもどかしさと眩しさ」をこれでもかと詰め込んだ作品でした。なんというか、京アニ時代の山田さんハイブリッド、といったような印象を受けました。

 

物語自体はラブストーリーとしてはシンプルだと思うんです。互いに惹かれてるんだけど、慣れない恥ずかしさが邪魔をして、前に進めない高校生。

その物語で山田さんが作品を通して見せたいのは『たまこラブストーリー』や『リズと青い鳥』のように、自分の気持ちを上手く伝えられないもどかしさと、その時の景色の揺らぎや輝きなのかな、と感じました。

そしてその二作と異なるのは、ハイコンテクストの強弱。『たまこラブストーリー』のような大胆な感情の表現ではないけれど、『リズと青い鳥』のような秘めた感情を写し続けるのとも違う。「青春のもどかしさと眩しさ」という言葉に重ねるならば、秘め続けるもどかしさの演出と、感情が露出する瞬間の輝きとでも言うのでしょうか。前述した二作の「いいとこ取り」だったな、という印象を受けたのはその2つの要素を感じたからでした。

そしてその2つの要素の根幹にあるのが主人公・珠美のジャージ。デザイン自体が体のラインを見せないゆったりとしたシルエットで、膝下まで包む柔らかな靴下も印象的。ぽてっとしたシルエットが可愛らしいですが、鎧というか亀の甲羅みたいな、なにかを守ろう、隠そうとするタマミの気持ちの表現にも感じました。加えて自分の感情を隠すときの襟に顔を埋める芝居であったり、袖から指先くらいしかでていないにも関わらず手の芝居が多いところにも、物語の展開と合わせて「もどかしさ」につながっていると感じました。*1

ただ、『リズと青い鳥』の「みぞれの前髪」とは少し違う印象もありました。凛に弾いている曲のアーティストが好きなのか聞かれ「好き!」と答えるシーンや、照れ笑いのあとに「私は絵が描きたい」と本心を言うシーンは、その率直な姿がジャージの演出とは対比的で、だからこそ印象に残るものでもありました。

 

また、一方で青春の「眩しさ」を感じさせる演出は空にあったと思います。

空は珠美の世界が広がりとリンクする存在として描かれていました。音楽室へ誘われた後の空、音楽室で二人で本音を話した時の空。そして凛と距離ができてしまった後の空。そのいずれも多様な空でしたが、そこには未知数な道へ続く飛行機雲があり、大きく広がる空があり*2、珠美の下から離れていく鳥が飛び立つ空がありました。白とびするかのような明るい空が珠美の記憶の断片のようでもあり、その時の眩しさのようでもあり印象的なシーンが多かったです。



あのときの音楽とともに蘇る風景の鮮やかさの中で、珠美自身に染み込んだ「隠す仕草」の愛らしさと切なさが印象的で、どちらも山田さんの代えがたい発想から創り出されていました。大人になった後の珠美が、あの頃の珠美が口にした「絵が描きたい」という気持ちによって変化していく…という物語も含め、繊細な演出が胸に突き刺さる作品でした。

京アニから抜けた後の山田さんの監督作『平家物語』も素晴らしい作品でしたが、個人的に好きな山田さんは、やはり本作のような青春という短い時間の中で、めいいっぱい駆け抜ける姿をカメラに収める山田さんだなあと思いました。京アニ時代から別れを告げ、作風も別のベクトルに行ってしまうのかな…と少し寂しく思っていた自分としては、とても嬉しく思いました。

今後の山田さんの作品も楽しみですね。

 

…あと、キャラデザが山田さんのコンテから飛び出してきたようなデザインだったのも素晴らしかった…。

*1:カーテンにくるまったりするのもそうですね。

*2:たまこラブストーリー』でも「宇宙のように広がっていく夜空」の演出がありましたね。もち蔵に告白された後、銭湯から帰るたまこが見上げる夜空。