『ツルネ -つながりの一射-』1話 1期1話との対比でみる、湊の「瞳のアップショットと視線の先」

『ツルネ -つながりの一射-』(以下、2期)、ついに始まりましたね。年明けから1期を見返していたので、1期からの約4年で変わった画面の質感や、作品自体の空気感に新鮮さが感じられてとてもおもしろかったです。

ツルネ1期は「風舞高校弓道部」というサブタイトルが付いていて、その「風舞高校弓道部」にそれぞれが居場所を見つけた物語だったと思います。そして「居場所」があるという価値は早気を治そうと「いるべき場所」を見つけた湊だけに留まらず、弓道部の皆、雅貴、トミー先生さえも、その「居場所」を通じての成長がありました。

2期のサブタイトルは「つながりの一射」。居場所を手に入れた湊たちが「つながり」を手に入れて、更に成長をしていく…そんなイメージが湧くサブタイトルです。1期ではメイン5人が「雅さんの教え」と「今まで自分自身がやってきたこと」をそれぞれが消化して、トーナメントを突破していく姿がありましたが、2期ではそこに横のつながりの成長を…といった感じでしょうか。
1期、2期とそれぞれ描くものは変わるかと思いますが、2期1話を見る限り、軸になる演出は変わらないような気がしました。

個人的にそう思えたのは、1期1話と2期1話、ともに印象的な「瞳のアップショットと目線の先を意識させた演出」があったからです。瞳のアップショットはツルネ2期のPVでもありましたし、山村卓也さんの演出としても特徴的なものですが、それに加えてその視線の先も意識したものが多々あって、1期1話と2期1話で比較できる要素だと感じました。

まずは1期1話。

湊の瞳のショット、そして視線の先を意識させるカットの一つはアバンにありました。
1期1話のアバンでは、枯れていた花が再生するイメージ的な演出から始まります。そして弓道の試合で耳にした弦音について母から教わり、瞳のアップショットの演出がありました(画像左)。
ここは湊の過去を振り返るようなシーンで、湊の弓道との出会いにさかのぼるとともに、湊が受けたインパクトの強さを印象付けるものでした。湊にとっての「はじまり」の記憶、そしてそれに対する「湊の感情の濁り」をフィルターのように重ねた演出で、目線の先の存在が不鮮明であることが逆に印象に残る演出でした。
そしてもう一つは風舞高校弓道部でデモンストレーションをさせられる湊のカット(画像右)。ここでの湊の瞳のアップショットは上手く的を定められない苦悶の表情に迫ります。過去の失敗を払しょくできないことを強調するアップショット、でしょうか。
 
どちらのアップショットも湊にとっての弓に対する根幹の感情に迫る重要なカットですが、それと併せて共通する部分としては、「過去の記憶」。
前者は「憧れの記憶」、後者は「苦い記憶」を思い出しているかのようなアップショットであり、瞳の先に物語としての「重要な過去」を内包しています。湊の過去がカギを握り続けた1期を象徴するかのような、1期1話の演出です。
 
そして2期1話では、これが対比的に使われている「瞳のアップショットと視線の先」の演出が二つがありました。

一つ目は、アバンの弓を引く湊のカット(画像左)。
1期1話では苦悶の表情で弓を引いていた湊が、今では濁りなく弓と向き合えている、ということが瞳から伝わってくるカットです。湊の「矢が弓を離れる瞬間、弦音が鳴り響けば、俺の感覚と景色は新しく広がり、高まっていく」というセリフも相まって、研ぎ澄まされた心とともに高みを目指していく、瞳の迷いのなさに息を呑みました。
二つ目は空を見上げる湊のカット。
湊の瞳に映る空と一直線に伸びた空が1期1話の「湊の感情の濁り」を払しょくしたかのようで、先に挙げた1期1話との対比的な印象が残りました。また、「弓を引きたい」とつぶやく湊が思い描いたような、矢が一直線に伸びていくような飛行機雲と空の青色の清涼感がとてもよかったです。1期で早気に苦しんだ湊が気持ちよく弓を引けているんだというのが伝わってきて、とても嬉しい気持ちになるカットでした。

2期1話のアップショットで共通するのは、湊の瞳に、そして視線の先に「これから」を意識するものがある、ということです。弓を引く湊のカットは1期1話と同じく視線の先に「的」があるわけですが、早気の時の「わかりきった結果」があるのではなく、成長の途中にある湊の「これから」の意味合いを含んだ「的」を感じさせます。伸びていく飛行機雲は、これからの湊を前向きに指し示すような演出で、こちらも湊のセリフにあった「景色は新しく広がり、高まっていく」に直結するような風景でした。
これが1期の演出とのコントラストとなり、魅力的な演出となっていました。湊にとっては短い期間ですが、その間の成長を表現する意味合いとしても、この上なく発揮されていたと思います。
 
コンテ・演出は1期1話、2期1話ともに山村卓也監督。
アバンの花の演出も1期の「枯れている花が咲く」が、2期では「咲いた花が色づく」に。1期1話に重ねるような演出が多々あり、この「瞳のアップショットと視線の先」もその一つかな、と感じました。
2期1話では、どれも湊の背中を押すような前向きな演出が多く、1期からのカタルシスを感じるような、カラッとしたさわやかさが感じられる演出がとてもよかったです。
 
また、2期1話の先行上映会では、湊役の上村祐翔さんが台本のト書きに言及していました。

上村は、湊が「弓を引くことで繋がってるつながってる気がするんだ。俺の目指してるものに」と言う、第1話終盤のひと幕をピックアップ。そのシーンは台本のト書きに「ゾクッとするほど純粋な表情の湊」と書かれていたそうで、上村はその記述に負けぬようこだわって収録に臨んだと明かす。*1

このカットも、「ゾクッとするほど」の表情を瞳から溢れる純真さを軸に作り出していました。そして湊だけが見えているであろう、目線の先にある「目指しているもの」への強く、静かな熱意も。瞳を映しているだけなのに、その熱気があふれているように感じられるのは、本当にすごいな、と感じます。
ト書きから伝わる「純粋」という部分に掛ける山村さんの想いがあってこそなのでしょうね。


湊の「瞳のアップショットと視線の先」の演出は、「過去とこれから」、「気持ちの純度」に要注目、かもしれません。