『響け!ユーフォニアム3』1話 「過去と現在の久美子」をつなげるアバンタイトル。

今回はユーフォ3期1話の中でも素晴らしかったアバンタイトルのシーンを振り返ってみたいと思います。

1年生の春と、3年生の春。

久美子の3年生としての朝の風景が描かれるアバンタイトル。1期1話、1年生の久美子を想起するようなカットが多々あって、対比や意味の重ね方が面白かったです。

 


例えば久美子の部屋の机。高校の教科書が乱雑に置かれているところに「高校生活に慣れた久美子」が伝わってきますし、あすかとのエピソードで重要なプロップとして使われていた「たのしいユーフォニアム」が教科書と一緒に置かれていることで、高校生活の中でその教本の意味がアップデートされたことを感じさせます。

 

久美子の部屋にあるサボテンは1期1話(画像左)で丸い形だったものが3期1話(画像右)では二つのコブができていました。このサボテンは1期でシリーズ演出を担当していた山田尚子さんのアイデアで、その存在理由については1期1話のコメンタリーで山田さんが話されていました。

久美子は女の子です。妹なんです。結構空気読むというか、周りを見る子なんですよね。自分の好き嫌いを公に言わなくなるというか。久美子の部屋だけでは自分の隙ができる。好きなことをさらけ出せるというような。お姉ちゃんはいっぱい叱られたりとかあった分、天真爛漫な部分があるんですよね。「私これ好き」っていうような強さを持ってる。妹は怒られなかった分、自分を出すことがあんまりうまくないのかなと。

つまりこのサボテンは久美子の中にある「こうしたい」だとか「自分はこれが好きだ」っていう感情を具現化したものみたいなんですよね。そう考えるとこのサボテンは、自室の世界だけなく、誰かに「嫌い」「好き」を言えるようになったり、自己表現ができるようになった久美子の成長にリンクしているのではないかと思います。狙ったわけじゃないと思いますが、このとき山田さんが口にした「私これ好き」は、3期ディザービジュアルに書かれている「私、北宇治が好き」とも重なっているように感じました。また、1期1話の時点で考えられてきた久美子の「好き」が3期においても大事な要素として残っているところに、物語に一本通った筋の強さを感じます。

 


一方で牛乳を飲んだコップをほったらかして家を出ていく久美子は、1期1話(画像左)で麦茶を飲んだコップをほったらかしていたころから変わりなかったりするのが面白いです。最上級学年といえど未成熟な思春期の高校生っぽさもあるという、地に足付いた人物のワンシーン。ここも朝の風景の一つとしてさらっと映しているのが良かったです。

 


通学路のシーンは1期でも鮮やかだった桜の景色に目を引きますが、個人的に印象に残ったのは信号機のカット。1期1話(画像左)では吹奏楽部への入部をためらう久美子の心象風景として、長い赤信号の演出がありました。葉月たちに本音を話す久美子(つい口から出してしまったわけではなく)を映すシーンとしては初めてで、1期1話の物語上のフックにもなっていました。3期1話(画像右)では音楽に合わせて軽快に青信号で駆けていく久美子を映します。ポジティブな感情演出の一例として考えれば珍しくないですが、1期1話と重ねると『響け!ユーフォニアム』シリーズだからこその意味が生まれます。
1年生のころは「吹奏楽部」という横断歩道の先へ進むことに躊躇いがありましたが、3年生になった久美子はその横断歩道へ躊躇なく、まっすぐ北宇治高校へ走りだせる。その行動に久美子の今までの物語が詰まっているような気がして、とてもグッときました。ここでも「私、北宇治が好き」という久美子の心情に繋がっているようで、今の久美子の北宇治吹奏楽部への熱量を示すようなシーンとしても印象に残りました。

 

背景とレイアウトで語る久美子の過去と現在。

なんとなくですが、アバンタイトルは1期1話もそうですし、今までの場面を思いだすようなモチーフが多かったような気がします。

短いBGオンリーのカットも久美子ベンチだったり、通学路にある公園だったりと盛りだくさんでしたが、個人的に巧い映し方だなと思ったのは麗奈と合流するシーンの望遠カット。京阪宇治駅前の横断歩道と、坂道になっている国道7号線を映すことで1期5話Aパートの終盤と重ねているように感じました*1

1期5話のこのシーンは、久美子に対して初めて素の笑顔を見せる麗奈が印象的でした。そのうえで、3期1話のアバンタイトルで当然のように一緒に通学する二人の姿が良かったです。望遠で国道7号線に沿って二人を映す、というレイアウトの重ね方によって3期1話の関係性に至るまでの経緯を自然と想起させてくれました。

 

アバンタイトル終盤では『リズと青い鳥』のラストシーンの白壁が登場します。『リズと青い鳥』では画面下手へ向かって歩いていた希美とみぞれですが、3期1話はそれと対象的に上手へ向かう横位置のカット。背景とレイアウトによって重ねさせるようなこのカットは、1年生の時のできごとも2年生のときの物語も通り抜け、3年生として登校する風景を見せる...といったような構成でしょうか。

その場所にいること、そしてその場所から特定のレイアウトで描くことで、久美子の過去と現在地を描く。シリーズファンとして心揺さぶられる演出でした。やりすぎると意味深すぎて内輪ネタっぽく感じてしまうこともある演出ですが、軽快なカット割りが「過去と現在の久美子」を自然に結びつける役割を担っていたと思います。

 

アバンタイトルの登校シーンは原作にはなく、アニメオリジナルのものです。1期1話の景色と3年生の久美子という「過去と現在の久美子」を結びつけることで、『響け!ユーフォニアム』シリーズで味わったわたしたちの映像体験も重ねてくれたような、素晴らしいアバンタイトルの演出でした。

*1:1期5話は京阪宇治駅前の横断歩道を南に渡ったところでの一幕でしたが、3期1話は駅側である北に渡ったところでのカットなので、微妙に位置が違います。