「『ツルネ -つながりの一射-』公式ファンブック」を買いました。

『ツルネ-つながりの一射-』の公式ファンブックが10月23日に発売されました。
正直あんまり期待してなかったんですけど、KAエスマビジュアルブック文庫編集部、今回はグッジョブでしたよ…!

目次とページ数は以下のとおり。

  • キャラクター紹介・キャストコメント…42ページ
  • ストーリープレイバック…25ページ
  • インタビュー&コメント…35ページ
  • メイキング「感情を動かす色彩の世界」…2ページ
  • 山村卓也監督イラストコメント…1ページ

その他、ディザービジュアルだったりグッズ紹介のページがありました。

「ストーリープレイバック」に載せてる線画のチョイスが良い

各話のあらすじを載せている「ストーリープレイバック」が各話2ページずつあるんですが、その中で「クリエイターのイチ推し!」と題し、各話のスタッフがチョイスした原画や演出修正を載せていました。このチョイスとスタッフコメントが面白かったです。

個人的に気になったのは、まず8話。石原さんがチョイスしたのはここの原画です。

このカットなんですが、スタッフコメンタリーで原画は隈嵜那美さんが担当されてるという言及があったんです。原画の線や原画番号の描き方で他パートを追えそうだなという意味で、石原さんナイスチョイスでした。

同じ理由で山村さんがピックアップしている12話。

このカットは安藤京平さんの原画とスタッフコメンタリーで言及がありました。こっちは原画番号の描き方にすごく特徴があったので深掘りのし甲斐がありそうです。
山村さんのコメントではレイアウト段階から安藤さんがカメラワークを決めたと書かれていました。コメンタリーでも3Dのカメラワークを山村さんと安藤さんで何回もチェックした、という話をされてましたし、安藤さんの熱量がこもった原画が見られて眼福です…!

9話は髙橋真梨子さんがここのカットの演出修正をチョイスしています。

演出は以西芽衣さんなんですが、端書の多さとそこから伝わる情感がとてもよかったです。

"弓道そのものに復讐してやる"という決意のカオですが、くやしさと怒りがこみあげてきて涙がでそうなニュアンス*1

さらにその脇には

泣きそうな顔ではない*2

ともありました。すごく細かいニュアンスではありますが、このシーンの二階堂の感情として、落ち込む、悲しい…ではないんですよね。西園寺の門戸から拒否されたことに対する復讐心…いわば「血の涙を流しかけた」二階堂の感情なわけで、それがよく伝わる端書です。
この話数のスタッフコメンタリーには以西さんも参加されていて、表情にこだわったという話もされていました。光の反射や光源についてもこだわった、という話がありましたが、掲載されている演出修正にも細かく指定をされていて見応えバツグンでした。
今後の以西さん演出回には表情と光の使い方に要注目です。

その他、各話のキャプチャーとキャプションがついている「PICK UP」という項目があるんですが、演出について言及しているキャプションもあったりして、「ストーリープレイバック」ページ全体が面白かったですよ。

10話はこのカットなんですけど、キャプションがめっちゃ演出語ってて好きです。

1年前、二階堂が辻峰高校にやって来た頃を描いた回想シーン。校舎に掛けられた温湿度計の針は、ぎりぎりのところで安全圏を保っている。廃部寸前の弓道部の状況や、私怨による復讐を遂げようと目論んでいる二階堂の心理状態を表しているようでもある。*3

ボリューミーなスタッフインタビュー

あとは「インタビュー&コメント」のページあるスタッフインタビューがボリューミーで読みごたえありました。京アニスタッフに絞っても24ページはあります。インタビューを受けている京アニスタッフとページ数は以下のとおり。

  • 山村卓也さん…4ページ
  • 門脇未来さん…4ページ
  • 丸木宣明さん…4ページ
  • 落合翔子さん…2ページ
  • 篠原睦夫さん…2ページ
  • 秦あずみさん…2ページ
  • 唐田 洋さん…2ページ
  • 船本孝平さん…2ページ
  • 山本 倫さん…2ページ

山村さんのインタビューは映像作家としての山村さんの芯に少し近づけるような内容で面白かったです。

インタビュー冒頭で2期の作品づくりを問われた山村さんですが、こういったコメントをされてました。

観た人の「心をえぐる」ような映像が作りたいと思いました。世の中にはたくさんの映像作品があって、残念ながら忘れ去られてしまう作品もあります。ですが、その中でも「あの映画のこのシーンが好きだ」とか、心に刻まれるものがあると思うんですね。それは、映像に「心をえぐられた」ということなのだと思います。これまで『ツルネ』以外の作品で各話演出を担当した時にも、常に「人の印象に強く残る映像を作りたい」と思ってやってきました。(後略)*4

以前から山村さんの演出回はここぞという時にギアを入れ替えるような瞬間があるな、と感じていたので納得のコメントでした。
例えば『響け!ユーフォニアム2』10話の山村さんコンテ演出回。Aパートのここぞ、は久美子の姉と味噌汁を作るシーン。姉自身の今までの失敗と鍋についた焦げを重ねるんですけど、ここのシーンだけ会話劇でありながら映像が登場人物の感情を先だって語る、という仕掛けがありました。その仕掛けがあるからこそAパートラスト、姉の前で素直になれない久美子が電車で涙するシーンが刺さるんだと思うんです。
ラストBパートは渡り廊下の久美子とあすかのシーン。ここも久美子の想いをぶつける言葉が常時強いんですけど、その言葉を紡ぐまでの思案の時間はここぞと映像演出で仕掛けていて、久美子の瞳のブレがそれだったと思います。個人的には、山村さんを意識するキッカケとなった演出でしたし、今でも『響け!ユーフォニアム2』といえば石原さんの演出回でも、山田さんの演出パートでもなく、このシーンを思い出すので、「心をえぐられた」演出といえばここだな、と思い返したりしました。

あとは山村さん自身についてではないですけど、石原さんの演出について。

(前略)第9話の短い回想シーンで、いかに二階堂のバックボーンを伝えるか工夫が必要でした。第9話の絵コンテを担当された石原(立也)さんには、「回想では時間の経過を表すために春夏秋冬を描いて欲しい」と伝えました。二階堂と茂幸叔父さんが過ごしてきた、大切な日々を季節の移ろいとともに感じてもらえるシーンになったかと思います。(後略)*5

この季節を表すシーン、やはり石原さんのアイデアか!と。春夏秋冬といえば、みたいなアイコニックなものがあって、もちろん石原さんも秋はイチョウとか使ってるんですけど、その使い方がテクいな、と思って印象に残っていたんです。

この2カットは夏、秋だと思うんですけど、どっちも「誰かの記憶」っぽい画にしているのが巧いなぁと思ったんですよね。二階堂の回想なので、二階堂の記憶だと思うんですけど、夏=入道雲、みたいなカメラの置き方じゃなくって、茂幸と行った夏休みのコンビニという記憶にある夏の景色、というような。秋のカットもそうですよね。色づいたイチョウ、ではなくて車から見た景色に秋があった、という記憶のような画面づくり。山村さんも言及しているとおり短いシーンなんですけど、二人が過ごした時間で二階堂だから覚えている特別な景色だとわかります。すごく上手な演出だな、と感じました。

ただ、この春のカットはちょっと石原さんが登場しちゃってる感じはありますね。春に菜の花、というのは不思議じゃないですけど、『CLANNAD AFTER STORY』がちらついちゃうんだよなあ、みたいな。

丸木さんのインタビューでは瞳の修正に関する話があったり、徳山さんが作監になったいきさつについて簡単に触れられていて読み応えありました。1枚だけですが丸木さんの総作監修正も載っていました。

インタビューの端には「好きをみつめるQ&A」というミニQ&Aがあるんですが、「湊にとっての雅貴のように、師匠または心の支えとなる人はいますか?」という質問はナイス…ではあるんですが、みなさん抽象的な答えが多かったのが少し残念。

 

以上です。

3500円なのでムック本としてはやっぱり高めなんですが、今回はその価値以上のものがありました。

ムック本読みながらツルネ2期を見直してたんですけど、やっぱめちゃくちゃ面白いです。ぜひとも3期を…!あとコンテ本も…!!!

*1:「『ツルネ -つながりの一射-』公式ファンブック」75ページ。

*2:同上。

*3:同上、77ページ。

*4:同上、86ページ。

*5:同上、87ページ。