『特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』京アニスタッフインタビュー記事まとめ+記事の感想

自分が気づいた範囲ですが、『特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』に関する京アニスタッフインタビューが掲載されている媒体をまとめてみたいと思います。

…とはいっても京都アニメーション公式Xがリポストしてくれてるので全然有益じゃないですが...。
あとでインタビュー記事の在り処をわかりやすいようにしたいので、感想を交えつつピックアップ。

石原監督✕小川副監督 対談(2023年6月12日 『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』公式ホームページ)

anime-eupho.com

冒頭の質問でインタビュアーが「『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』(以下『アンコン編』)の制作が進んでいますが、いかがですか?」と聞いているので、公開されるよりも少し前に行ったものでしょうか。ほかのインタビューとか舞台挨拶を聞くと、もう既に3期の制作が進んでいるという話がでてくるので、数少ない本作制作中のインタビューなのかもしれません。

今読み返すと、小川さんが「オーメンズ・オブ・ラブ」の部分に言及してたり、本編の制作に関わる話が結構出てきていますね。短いインタビュー記事ですが、経緯から本編の注目ポイントまで、簡潔に網羅されてて素晴らしいです。

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』石原立也監督×小川太一副監督インタビュー(2023年8月2日 アニメイトタイムズ)

www.animatetimes.com

公式ホームページのインタビュー記事を読んだ直後にアニメイトタイムズの記事を読むと、なんというか、絶妙に深掘りされてる感じがして面白いです。

「アンサンブルコンテスト」を選んだ経緯についてだったり、小川さんが映像化するにあたって起承転結を作ることに悩んだ、といった部分だったり、重複した内容なんだけれど、上手く掘り下げられてる記事です。

個人的に印象に残ったのは2ページ目のここ。

――本作で、部長になったばかりの久美子を描く際、特に意識したことなどを教えてください。

石原:『アンサンブルコンテスト』では、まだまだ四苦八苦しているかな。

小川:そうですよね。コンテを描く時にも意識したのは、部長の久美子をちゃんとしすぎないってことでした(笑)。

原作を読んだとき、ミーティングのシーンの久美子はなんだかんだ部長をやれているイメージがありました。アニメだとミーティングが始まる前のおしゃべりが少しずつ治まる、みたいな演出がありましたが、原作では強豪校らしく粛々とミーティングが始まっていたり。

久美子もそうですし、新生北宇治吹奏楽部の「これから感」が小川さんの言う「ちゃんとしすぎない」という要素とイコールなのかな、と思いました。

久美子の日常と成長を描く 『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』石原立也監督インタビュー(2023年8月11日 Febri)

febri.jp

前後編の記事。本作公開後の掲載だからか、具体的なシーンへの言及が多いですね。

石原さんが久美子と麗奈の廊下のシーンや奏のシャドーボクシングに言及していて、どっちも意識的に描いたコンテじゃない、みたいな発言をしていますが、ああいう体を大きく動かす芝居は今までも石原さんの演出でありましたよね。石原さんの感覚として染み付いている、キャラクターの個性を出す芝居なのだろうなぁ、と記事を読みながら考えたりしました。

石原さんがマリンバに言及する部分も増えてきました。

想像以上の演技力を|『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』石原立也監督取材(2023年8月11日  コトカレ)

kotocollege.jp

こちらも前後編の記事。媒体が学生向けのウェブサイトなので、内容も具体的な部分までの言及は少ない気がしました。

ただ、その分、石原さん自身のお話が多くて興味深いです。後編は特にその色が強くて読み応えありました。京アニらしさとは、と問われて「愚直さ」と答えた石原さん。以前アニメスタイルの『日常』特集で、石立さんも「よくも悪くも真正直に作品と向き合う会社*1」とお話されていましたが、ほとんどおんなじことを言っていて面白かったです。

あとベレー帽を被っていない石原さんの写真がレアです。

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』総作画監督池田和美さんインタビュー(2023年8月13日 アニメイトタイムズ)

www.animatetimes.com

いろんな部分で気を遣う役回りになった池田さんですが、インタビュー冒頭の「まず最初に思ったのは「これは責任重大だぞ」ということでした。」という言葉は、かなり重たい言葉だなあと思いました。ファンからもスタッフからも前作との比較をされつつ大役をこなすのって、本当に生半可なことじゃないと思います。

個人的に印象に残ったのは、デザイン面での魅力を聞かれた池田さんのコメントです。

池田:体温と体重がしっかり感じられて実在感があるところです。ぽっちゃりしているといった話ではなくて、ただ立っているだけの絵でも、骨があって肉があって、しっかりと地に足がついている、という感じがするんです。瞳や髪などはカラフルでキラキラしていてアニメ的だけれども、この「重み」の部分が演技と相まってキャラクターの存在感を増幅させていると思っています。

これめちゃくちゃわかる…!となったわけですが、言語化がちょっと難しいです。個人的には本作で言うと、冬服の厚み・重たさを感じる部分が実在感というのに繋がっているのかなと思ったりしました。

例えばこのカットとか、冬服着ている感じが強くないですか?

背中の襟のたれてる感じとか、腰から臀部にかけてのラインと、そこから垂れるスカートとか、左足に少し乗ったようなスカートの裾とか。冬服のかさばる感じと重たさを感じる「垂れ」がいろんなところにあるっていう。

 

このカットもまさしく、かさばって体のラインが出てない服装ですが、体の厚みを感じるところが、池田さんが口にした「重み」に繋がってるのかな…と思ったりしました。

響け!ユーフォニアム:4年ぶり新作 何気ない日常を丁寧に描く 石原立也監督が込めた思い(2023年8月14日 MANTANWEB)

mantan-web.jp

短いインタビュー記事ですが、内容濃いです。

「つばめのように自己肯定感の低い人は結構いるんですよね。僕自身もそうですし。『自分のやりたいようにやっていいんだよ』と少しだけでも肯定させてあげる、というのが、この作品で描きたかったところです」

ここの、つばめに対する言及も面白いです。つばめが自分自身を肯定するまでの導線を久美子が引いているわけですが、自己肯定ができるようになってきたつばめと、そこに至らせた久美子の部長像、みたいなものが強調はされず、かすかに見える感じ。これが上手だなあと思いました。

渡り廊下のシーンについての言及も多くはないですが面白かったです。

日常のさりげないところで、重要な話をすることってありますよね。マリンバを運ぶシーンが今回のクライマックスだと思っています。

マリンバを運ぶのに立ち位置を変えながら会話をする、という部分は原作にも描写はなく、石原さんのアイデアが全面に出ているシーンです。目線を合わせないからこそできる重要な話、という演出。

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』パンフレット 石原立也監督、小川太一副監督、池田和美総作画監督 スタッフディスカッション

身内だけの鼎談だからか、インタビュー記事とは全くと言っていいほど話が被っておらず、和気あいあいとした空気感が楽しいです。

チーム紹介の手書き文字を石原さんが書いたという話の中で、

小川 あと以前に石原さんと演出について話していたときに、人間って余計なことするよねって話をしていて。例えば…石原さんはインタビュー中なのにノートに鯉のぼりの絵を描き始めていますけど…。作中でもキャラクターが何かをするときに別の動作を入れたりしているじゃないですか。

石原 何か無駄なことをさせないとキャラクターの芝居が人間っぽくならないと思うからね。

ここのくだりは、小川さんのライブ感あるお話も含めて面白かったです。本作でもすぐに思い浮かべられるところが結構ありますよね。記事で言及されている奏の芝居もそうですし、会話中に周辺をフラフラする希美とか、足をプラプラする久美子とか。小川さんの思う石原さんのキャラクター演出にも言及されている部分で、スタッフコメンタリーだと石原さんが途中で遮ってしまいそうなお話なので、貴重です。

月刊ニュータイプ2023年9月号」石原立也監督インタビュー

2ページのインタビュー記事。

上記記事と重複する内容も多いですが、マリンバに深く言及しているところが他の記事と大きく異なります。記事中で名前は出していませんが、NHKの料理番組のテーマ曲を作られた、マリンバ奏者で作曲家の冨田勲さんについて話題が上がっていました。

 

以上です。

随時更新していきたい。

以下追記。

Megami Magazine(メガミマガジン) 2023年10月号」監督・石原立也、脚本・花田十輝スタッフインタビュー

メガミマガジンだしちょっとしか枠ないんだろうな~って思ったら3ページに渡ってのインタビュー記事が載ってました。作品公開から時間が経っているのもあって、北宇治高校吹奏楽部の幹事選出についてや久美子と麗奈の関係性等々、結構掘り下げた話が多いです。

演出に関してはこんな内容がありました。

花田 僕が今回印象的だったこととして、久美子がけっこう脚をバタバタさせているシーンがあったんですよ。これって久美子の迷いを現すような仕草だったのかなと思ったんですけど、実際どうなんですか?

石原 そこまで考えていなかったかもしれないですけど、人は考え事をしているとき体を動かしていることがあると思うので、それが出ていたのかもしれないですね。

教室で麗奈と話すシーンのことですね。個人的には迷いの表現でもあり、部内にいる久美子が肩肘張らずに本音を打ち明けられるようになった、みたいな開放の表現でもあると感じました。今までの久美子は言わなきゃいけないと切羽詰まったところまでは心の内に留めようとしていて、それがたまに声に出てしまいツッコまれる…みたいなシーンがありました。そこから『アンサンブルコンテスト』では、部長という役職を担う久美子が副部長の麗奈へ「ここぞ」でなくても部内の人間関係とかに言及ができるようになりました。その環境の変化が、リラックスした久美子の表現として脚のバタバタを生んだのかな、と。

石原 こちらでシナリオにない、動きでのスキンシップを加えることはありますよ。今回だと洗面所で久美子が麗奈に抱きつく描写は、シナリオだともう少し軽い感じだったのですが、絵コンテの時点でけっこう大胆に抱きつくようにしています。

(中略)

石原 僕も2人を抱きつかせることはありますけど、これでもあんまりベタベタさせすぎないようには気をつけているんですよ。久美子が麗奈に抱きついたシーンって、そのあと久美子の「私より上手い子が入ったら麗奈はどうするんだろう」というシリアスなモノローグが入るんですよ。そのシリアス感を和らげるために、じゃれているようなシーンを入れたかったんですよね。

別記事でも書きましたが、ここらへんが石原さんのバランス感覚の良さだなあと思うんですよね。二人の距離感にも配慮しつつ、二人の関係性の心地よさも示すようなバランス感覚。そして「二人のシーン」という意味合いだけでなく、そのあとの久美子のモノローグによって部長としてだけでなく、久美子個人の不安感をも描写するところが本当に素晴らしいです。「視聴者へのご褒美シーン」だけではなくて、久美子の少しセンチメンタルな部分に触れる前のクッション的な役割でもあるんですよね。

花田 じつはあの写真の演出って、シナリオの時点では入れる予定がなかったんです。あれを入れることになったのって、絵コンテの段階とかですか?

石原 もっと後ですよ(笑)。当初は久美子達が「オー!」って気合を入れて、そのあとすぐラストの公園のシーンという感じでした。でも制作がもうそろそろ終わりに差し掛かろうという段階で、全体を通して見るともう少し情報が必要ではという意見が出たんです。どうしようかと悩んだ結果、写真による部員紹介をしながら結果発表を入れようとなったんです。

「あの写真の演出」は終盤の部員紹介シーンを指しています。終盤のシーンがコンテ後のアイデア、というのは初出しの情報のような気が。
完全に憶測ですけど、このアイデアって小川さんっぽい気がします。OPの「写真の演出」も小川さんとか原画マンのアイデアだと舞台挨拶とかで触れてましたが、メイン級のキャラ以外の存在そのものや、部員同士の関係性という意味では終盤のこのシーンも同義だと思うんですよね。『アンサンブルコンテスト』の始めと終わりに同じようなフックを作るためにも部員紹介の時間を改めて作ったんじゃないかな、みたいな。

 

*1:月刊アニメスタイル」第5号 38ページ。