京アニ作品のモブ野球部員たち。

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』は学校外どころか校舎外にカメラを向けるカットがめちゃくちゃ少ないです。
学校外で言えばメイン4人組の下校シーン、校内オーディション冒頭の宇治市の景色、ラストの公園のシーン。ほんとにこれくらいしかないです。
校舎外に範囲を広げると、みぞれと久美子のシーンやホルン組が中庭で練習してるカットなどがありましたが、そのうちの一つに野球部がミーティングをしているカットがありました。校舎外のカットというだけでもレアですが、吹奏楽部員が映っていないカットとなるとなおさら珍しいです。

そんな感じで野球部のカットがやけに印象に残ったので京アニ作品を脳内で遡ってみると、モブ野球部を使った演出だったり、映像としての導線で使われてるのがいくつかあったなぁと感じた次第です。

ということで、今回は京アニ作品内のモブ野球部員を振り返ってみたいと思います。
それに意味があるのかと言われると書き始めた今はまだ見えてこないのですが…書きたいことを書くのが第一ということで…。

涼宮ハルヒの憂鬱』7話

草野球の練習場としてハルヒたちにグラウンドを占領される北高野球部。原作では野球部員のセリフや描写はほとんどありませんが、アニメではギャグっぽい動きと色仕掛けに弱い部員たちになっていて、SOS団と違う空気感が面白いです。谷口とも少し違うタイプのザ・男子高校生感がとても良いです。

みくるを見て色めき立つ野球部員に「わかりやすい青春」という感想を漏らすキョンですが、このセリフがモブ野球部員を映すことの本質をついている気がします。『涼宮ハルヒの憂鬱』でいえば、部活動に打ち込んでいる、いわば「わかりやすい青春」を送っている野球部と、普通の青春を過ごしたくないハルヒが作ったSOS団。作品序盤の話数*1でもありますし、そのコントラストを狙ったシーンでもあるのかな、と感じました。

『日常』15話

「ラブ的」のコーナー(?)でモブ野球部が登場。マネージャーに帽子をサッと被せる仕草に青春の色が…みたいな感じですが、ここでも青春の象徴として野球部員が出てきます。

コンテ・演出は北之原さんなんですが、画面上の演出というよりは脚本によるアイデアな気がします。ちなみに15話では石立太一さんが脚本を担当されています。

さらにちなむと、この野球部は時定高校野球部じゃないんですよね。別の話数で時定高校野球部が出てきますが、帽子のマークは星印でした。デザイン的にも、なんとなく『タッチ』の明青高校っぽい帽子な気がしなくもないですが…。

響け!ユーフォニアム』12話

北宇治高校野球部のペッパーカット。エピソード冒頭、エスタブリッシュメントカットとして使われています。打球を付けPANで追うカメラワークに躍動感があって印象に残っていました。

このカットの前後には他の運動部の点描もあって、その後に吹奏楽部が練習する音楽室へとカメラが向かいます。野球部のカットは「部活動の練習」の象徴みたいな役割を果たしていました。

野球作画も上手です。手首を使ったトスとトップを作ってスイングするバッターの動き。

『ツルネ -つながりの一射-』4話

このエピソードではシーン初めの場面転換として辻峰高校野球部が登場。ノックで上げた打球を付けPANで追って、その勢いでPANダウンし弓道部練習場へ。エスタブリッシュメントカットとして面白いアイデアです。先に挙げた『響け!ユーフォニアム』12話と似たカットですが、アイデアは更に追加されてます。

そしてアイデアだけにとどまらず、整った環境で練習する野球部とそうでない弓道部の対比にも使われているのがまた面白いです。上へのPANと下へのPANでネガティブ・ポジティブなイメージも重ねていて、シーンの導入かつ短いカットですが、辻峰高校弓道部の演出にもなっていました。

この野球部カット、セカンド付近で守る選手が打球を追う前に足を上げて、一歩目に向けた予備動作をしてる芝居を入れてるのがめちゃくちゃ凄いです。野球経験者なら当然の動きですけど、映像作品では滅多に見たことないです。

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』

そして『アンサンブルコンテスト』。モブ野球部カットはさつきの頭を撫でる久美子のシーンから下校のシーンまでをつなぐカットとして登場します。

「上手な人の演奏が楽しみ」と話すさつきに、部長としてどういう言葉をかければいいのか悩む久美子。それとは対照的に堂々と声がけする北宇治高校野球部の姿は、理想の部長像のように映されていました。

野球部をカメラの中心に据える前に窓越しのカットを入れるのがテクいですよね。理想像を縁取る枠のように映りますし、久美子が窓越しに外を見るカットへ繋げることで、まだその理想像にたどり着けない久美子を表現していました。モノローグで語られる久美子の心情を上手に演出する野球部のカットでした。

 

こうして振り返ってみると、モブ野球部員はキョンのセリフにあったような「わかりやすい青春」のモチーフとして使われていることが多いです。それは逆に言うと主人公たちが青春の一丁目一番地を歩いていないのかもしれません。『涼宮ハルヒの憂鬱』のSOS団、『響け!ユーフォニアム』シリーズの吹奏楽部、『ツルネ』シリーズの弓道部は高校野球で言う「甲子園」みたいな、明確な達成目標や目標までの過程が分かりづらい。そこで演出陣をはじめとする京アニスタッフは野球部員を使って登場人物の環境や熱量を(ときには対比的に使いつつ)表現しているのかもしれませんね。

今後も主人公たちの活躍と合わせて、モブ野球部員の躍動にも要注目です。

*1:2009年の時系列順で放送された際は7話でしたが、2006年放送では4話でした。